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ウェーハはシリコンでできていますが、純粋なシリコンはほとんど電気を通しません。
そこで電気を通したり通さなかったりする半導体の特性を持たせるために不純物を添加させる必要があります。
この不純物を添加するプロセスがイオン注入・熱処理プロセスです。
ウェーハにイオンが注入されると、注入された領域が非晶質化します。非晶質化したウエハーを元に戻すために熱処理が必要になるので、このふたつは一組のプロセスになります。
今回は、シリコンウェーハに半導体の特性を持たせるイオン注入・熱処理プロセスの紹介です。
イオン注入(ion implantation)とは、不純物になる原子をイオン化し、高電圧で加速させてシリコン結晶に打ち込む工程です。I/Iやイオン・インプラと略したりします。
このシリコン結晶に不純物を打ち込む(添加する)ことをドープまたはドーピングと言います。打ち込まれる領域は深くても1~2μmです。ドーピング濃度と深さの精密な制御が可能であり、半導体デバイスの特性を最適化することができます。
さらにドーピングされる不純物の元素の事をドーパントと言い、n型領域となる5価のリン(P)またはヒ素(As)や、p型領域となる3価のホウ素(B)があります。
シリコン結晶をn型半導体やp型半導体に変化させることによって、トランジスタとして動作させることができます。
実際にイオンが注入されるのはシリコンが出ている部分のみで、フォトレジストや酸化膜部にはイオンが打ち込まれません。
イオン注入装置は、必要な種類の不純物を必要な深さに必要な量を精密にコントロールして、シリコンウェーハに打ち込むことができます。
イオン注入装置は大きく分けてイオン源、質量分離部、加速部、ビーム走査部、イオン注入室から成ります。危険なガスを扱ったり、高真空が必要だったりする大掛かりな装置です。
イオン注入装置の概略図は次のようになります。
それぞれ解説していきます。
イオン源
真空中に導入した不純物のガス分子に対して電磁界を用いてプラズマ化させます。プラズマ化された分子に電子を衝突させて、所望のイオンを生成します。PH3(ホスフィン)やAsH3(アルシン)といった原材料ガスが使用されます。
引出電極
イオン源で発生したイオンは、正の電場(電界)によって引き出されます。この電場(電界)を発生させるための電圧を引出電圧と呼びます。
質量分離器
イオンビームに磁場をかけるとイオンの種類によって曲がり方が異なるという性質を利用して、不要なイオンを除去します。こうすることで、必要な1種類のイオンのみを取り出すことができます。
分析スリット
必要とするイオンを選択するためのスリットです。スリットの幅は、質量分析の分解能を決定する重要な要素になります。
加速管
イオンをシリコンに打ち込むためのエネルギーを高電圧印加により与えます。深くドーピングを行う場合には加速エネルギーを高くする必要があります。
Qレンズ
Qレンズは四極レンズとも呼ばれ、四つの電極または磁極を使って電場または磁場を生成し、イオンビームを正確に制御します。
走査器
イオンビームは照射径が小さいため、イオンビームを走査(スキャン)してウェーハ全面に当てられるようにします。
イオン注入室
ウェーハを載せたディスクプレートが挿入されており、ここでウェーハにイオンが打ち込まれます。
イオン注入後のシリコンウェーハのシリコン結晶格子は、注入されたイオンによりダメージが入って格子が乱れています。また、打ち込まれたイオンも正しい位置である格子点に配置する必要があります。
ウェーハに熱を加えてシリコン原子同士の結合を回復させる工程を結晶回復熱処理と言います。
熱処理の方法は大きく分けて3つあります。
- 炉心管方式
バッチ式のホットウォール型の熱処理装置で加熱します。 - RTA(Rapid Thermal Anneal)
枚葉式で赤外線を出すランプで加熱します。シリコンは赤外線を吸収しやすいので温度の上昇が早いことがメリットです。 - レーザーアニール
枚葉式で紫外線を照射しウェーハの表面、又はウェーハ上に形成した薄膜を局部的に短時間で熱処理します。
イオン注入装置は高度な技術力が必要な為か、他の装置と比べると製造しているメーカーは少ない印象です。
主な装置メーカーは次の2社です。
- 住友重機械イオンテクノロジー株式会社(日本)
- Applied Materials(米国)
イオン注入プロセスは、半導体デバイスの性能向上に不可欠な技術です。
高精度なドーピングが可能であり、さまざまなデバイス構造に対応できる柔軟性を持っています。
イオン注入技術の進展は、より高性能で効率的な半導体デバイスの開発を支え続けるでしょう。
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